データで見る“死因究明格差”

“死因究明格差”

そんな言葉が有名になって久しい。

犯罪が疑われたり、死因がわからなかったりして、警察が扱った遺体で、解剖される割合の地域格差が広がっている。解剖率の向上をねらって、政府は6年前に解剖の新制度をつくったが、解剖医や予算の不足などから、わずかしか増えておらず、特に地方では底上げができていない。
朝日新聞より「死因究明の解剖率に地域格差 神奈川41%、広島は1%」

↑のようにニュース記事にもなるくらいですが、その実態はどうなのか? 実際に数字ではどう見えるのか?

今回はこの疑問に迫っていきたいと思います。

皆さんのお住まいの地域は大丈夫ですか?

※今回のデータはどれも画像に記載された時点での数字です。常に最新のデータを反映したものではないことを十分ご理解した上で読んでください。

各都道府県における警察取扱死体数に対する司法解剖及調査法解剖の実施状況(令和4年)

実施率平均:6.4%
実施率高:沖縄県 16.6%
実施率低:広島県 3.0%

警察取扱死体(≒警察に届け出られたご遺体)に対する司法解剖+調査法解剖の割合が最も低かったのは広島県でした。

これは後述の“一人常勤法医”の影響でしょうね。。

解剖率の高い地域で言えば、沖縄県で、これはかつて第二次世界大戦後のアメリカ統治下の死因究明体制名残から、解剖率が高いだとか何とか…。(※詳しくは知らない)

秋田県や和歌山県も高いですね。これは、単にこの地域の先生方が頑張っておられるからだと思いますが。

逆に言えば、その先生が仮にいなくなれば、、、おそらくガクッと下がってしまうものと十分予想され、

決して死因究明体制自体が盤石であるわけではないと思います。

各都道府県における警察取扱死体数に対する司法解剖及調査法解剖の実施状況(平成25年)

実施率平均:5.8%
実施率高:沖縄県 20.1%
実施率低:東京都 1.8%

平成25年を見てみますと、、、解剖率が最も低かったのはなんと東京都でした。

あまりに警察取扱死体が多過ぎて、当時は解剖が回っていなかったのかも知れませんね。。

令和4年には3.8%まで上昇しているので、各大学の先生方が頑張ったのでしょう。

それでも、ここまで増やせる余地があったのも、東京は大学の数が段違いに多いからできる芸当であって、他の地域では不可能だと思います。

令和4年と平成25年の各都道府県別解剖率の差

1と2の解剖率の差を取ってみました。

基本的には「高いところは高いままだし、低いところは低いまま」といった印象ですが、栃木県(-4.5%)や鹿児島県(5.7%)のように大きく数字が変化した県もあります。

これもおそらく教授が代わったりした影響なのかな?と思います。

逆に教授が代わっただけ(?)で、この大きく数字は動いてしまうのです…。

都道府県別の法医数と常勤法医1人あたりの取扱死体数(令和4年5月1日)

令和4年5月時点で、常勤法医が1人しかいないのは↓の15県です。

・青森県
・岩手県
・秋田県
・福島県
・茨城県
・福井県
・長野県
・岐阜県
・奈良県
・広島県
・徳島県
・高知県
・佐賀県
・大分県
・鹿児島県

どこもが1県1医大の地域ばかりなので、常勤法医1人にかなりの負担と重圧がかかっていることが分かります。。

また常勤法医1人あたりの取扱死体数(※解剖数ではない)を見てみます。

これが多ければ多いほど、法医にかかる負担が多いことがわかります。

最も多いのが神奈川県 950.3件、最も少ないのが宮崎県 14.5件と、およそ65倍もの差があります。。

これはどうにかならないものでしょうか…。

都道府県別の法医解剖実施機関の設備等整備状況(令和4年5月1日)

これは、各都道府県毎に、解剖設備がどれほど整っているか?をみたものですね。

感染対策用の解剖室・解剖台がない都道府県

↓の通り、13県。

・福島県
・群馬県
・埼玉県
・福井県
・長野県
・岐阜県
・静岡県
・三重県
・奈良県
・和歌山県
・島根県
・香川県
・高知県

令和4年の数字なので、今ではコロナ禍も経験してきて整備が進んだ県もあるかもですが、現在はどうなのでしょう…。

逆に、ここまでのコロナ禍を経験してきても、感染症対策用解剖設備が整わないのなら、、、一体どうすれば良いのか?

法医学教室に死後CTや死後MRIがない都道府県

これは21県もあります。

・青森県
・山形県
・栃木県
・埼玉県
・富山県
・石川県
・山梨県
・岐阜県
・静岡県
・愛知県
・三重県
・滋賀県
・兵庫県
・奈良県
・岡山県
・山口県
・徳島県
・高知県
・佐賀県
・宮崎県
・沖縄県

こちらは、まだまだ全国的に普及しているとは言えない状況です。

法医学教室単独で持っていなくても、例えば、近隣の病院と提携していたりする地域もあるので、一概には言えませんが。

また「持っていてもろくに稼動していない」なんて教室も実際にはありそうです…。

薬毒物検査機器検査機器を法医学教室が自前で持っていない都道府県

こちらは5県のみでした。

・群馬県
・福井県
・鳥取県
・大分県
・宮崎県

さすがに「薬毒物検査を全く実施していない」は問題なので、上記の県であっても、科捜研などに依頼して、さすがに検査自体は行っているとは思います。

やはり自分たち自前で機器を持っているのが中立性担保などの観点から理想ではありますが、専門スタッフなどの配置の問題などもあって、厳しい県もあるのでしょうね。。

以上、今回は厚生労働省が公開しているデータを基に見てきましたが、いかがでしたでしょうか?

都道府県毎に大きく事情が違っていることがよく分かったはずです。

ただ現場の声としては、「限られた中で精一杯やっているんだから仕方ない」という意見もあると思います。

決して、法医学者がサボっているわけでは決してありません。

むしろ「法医学者各々が頑張っても、ここまで差が出来てしまう」というのが現状です。

まずは一般の方が危機感を持つことが重要です。

そして残念ながら、徐々に社会が変わっていくことを期待することしか私にはできません。

タイトルとURLをコピーしました