死因研究所の設立が難しい理由

Twitterにて、

「今の法医学者の立場は不安定すぎる」

そういうお話をしました。

ここでも簡単に説明します。

法医学者は大学からお給料を貰っています。

それは大学で、大学生への教育や、法医学に関する研究を行う対価として頂いています。

「あれ、法医学者って解剖する人じゃないの?」

そう思う人もいるかも知れませんが、解剖費はあくまで警察が支払っています。

大学は基本的に解剖に対して設備費以外は出してくれません。

つまり大学としては「あなた達は解剖をしなさい!」と言っているわけではないのです。

それでも、法医解剖は公共性の高い業務ですから、大学もそれを理解し、大学の設備を使って解剖することを認めてくれているのですね。

しかし、大学(の教員)にそんな公共性の高い仕事を任せるのは正しいあり方なのでしょうか?

大学に所属する人間として、本来の業務である教育や研究を差し置いて、解剖に時間を割くことは、本来許されるべきことなのか?

そんな疑問も出てきますよね。。

従って、「本来は、死因を専属的に究明する機関が存在すべきだ」と私は思っています。

ドラマ『アンナチュラル』みたいな感じのものですね。

現行の“監察医機関”は、ある意味で「死因究明のための解剖機関」とも言えますが、

全く制度の広がりを見せないどころか、むしろ減ってきている現状を鑑みると、おそらく監察医制度をこれ以上拡充するのは現実的に厳しいですね。。(法律上、導入可能地域が制限されていることもありますし…)

では、そんな死因研究所は実際に設立可能なのか?

個人的には、これもかなり厳しいと思います。

その理由を考えていきましょう。

まずひとつ目が、「解剖を決めるのは警察や裁判所である」という点です。

現行の法医解剖では、法医学者が「解剖しましょう!」と決めているわけではありません。(※監察医制度を除く)

警察等から「解剖をお願いします」と依頼が来て初めて、我々法医学者は解剖することができます。

ですので、まずそういった機関を作ったら、警察等から、解剖を依頼してもらえるほどの信頼を得なければなりません。

そして、そのような新しい機関に解剖を依頼するということは、元々解剖していた機関から解剖事例が移ることになります。

日々多忙なので、仕事が減るのはウェルカム!という法医学教室もあるでしょうが、その調整は必須となります。

つまり、警察等に加え、その地域の法医学教室とも、コネクションがないといけません。

また解剖までルートを新たに作り上げるのも、そんなすぐにできるものではありませんので、

警察との綿密な調整に加え、遺体搬送業者との協議も必要になるかも知れませんね。

そして、これが一番の理由ですが、、、

「死因研究所を運営していけるほどの利益を生み出せない可能性が極めて高い」

これが最も致命的に問題になると思います。

今の法医学教室は、医学部を抱える巨大な大学の傘下であり、大学から設備費やお給料、運営費を貰っています。

これでやっと成り立っているのです。

死因研究所となると、メインの収入は解剖費になるでしょうが、警察から貰える解剖費なんて、

・給料
・消耗品費
・検査費
・設備費
・その他、諸経費

これらを到底賄えるものではありません。

大学から色々支えてもらって成り立っているくらいですからね…。

それを、死因究明だけを行う一機関だけで回していけるのか?と言われれば、、、まぁ誰しもNoと思いますよね。。

では、他にもいろんな業務に手を出して営利企業化していくか?と言われれば、

そんなことをすれば、公平中立を守れるか怪しくなってきます。

さっきの話じゃないですが、そんな営利企業みたいな研究所には、警察等も解剖を依頼してこないでしょうね。

そして、これは個人的な予想なのですが、、、

仮に死因研究所なるものを創ったとして、「他の法医学者の理解は得られるだろうか?」

もっと明確に言うと「他の法医学者から、理解が得られないのではないか?」と思うのです。

やはり法医学にもいろんなお考えの先生方がいらっしゃいますからね。

詳しくは書きませんが、おそらく色々な方面から厳しいご意見を頂戴することになるような気がします。(※これは私の勝手な想像です)

と、まぁ、そんな理由などで、「死因研究所を設立すること」は、現実的にはかなり難しいと私は思っています。

やはり運営していけるほどの営利化が困難と考えられる以上、私設の研究所ではなく、監察医制度のように、国や自治体が予算を出して運営していく死因究明専属の研究所が妥当なところかなと思いますね。

それをするにしても、法医学全体が一丸となって行動する必要があるので、今のように各法医学者の足並みが揃っていない現状ではなかなか厳しいのかな…。

まずは法医学者全体で、同じ共通認識を持つことが第一歩であり、実はそここそが一番難しいのかも知れません。。

始める前から「厳しい!難しい!」というのは好きではないのですが、少しでも前に進んでいくことを願うばかりですね。

いつか偉くなって、周りの法医学者からも信頼されて、警察等にも顔が利いて、政治力もあって、、、

将来私がそんな“スーパー法医学者”になれたら、そんな日を掴み取れるかも知れませんねッ!笑

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