法医学者ポスト増加の気運

私は普段、質問箱というネットサービスで、匿名の質問を受け付けています。

そこで先日、ある質問を頂きました。

↑これです。

良い意味で、とても耳(とちょっぴり心 笑)が痛くなる質問でした。

ちなみに回答は↓以下のとおり。

空気感としても高まってないですねー。
そもそもな話、「ポスト増加」を口に出して問題提起している法医学者自体、実際現場レベルでは殆ど出会いませんので…。
各人、多少なりとも心の中では思っているのかも知れませんが、、、正直空気として現場の法医学者が必死にポスト増加を求めている気運は全く感じられませんかね。(せいぜい学会でお偉いさんが毎年ちょっと言及してるくらいです)
ポストに就いている自身の現状に満足してたり、「自分達ががんばってもどうせ増えないもんな…」と諦めている法医学者が結局は多いんだと思いますよ。。
こんな弱小アカウントでは何も変わりません。。

質問箱-法医学ブログ-より

私がブログやX(旧Twitter)を開始したのは、元々「一般の方にも法医学を身近に!」という思いがあったからです。

しかし、さらにその思いの奥には、法医学を知ってもらうことで、、、

  • 現状の法医学・死因究明制度の問題点を知ってもらう(問題提起)

もっと言うと、

  • 少しでも知ってもらうことで、その問題点を解決する糸口が出てくれば…

そんな気持ちがあるのです!

その中でも、特に私が問題視しているのが、この【法医学者のポスト問題】です。

少子高齢化の日本、、、確かにこれから人口も減っていくのは確実なわけなので、

そんな易々と正規雇用を増やすわけにもいかない現状は分かっているつもりです…。

しかし、これから亡くなる方も増えるのは目に見えていますし、解剖の需要も確実にこれから増大していくことでしょう。

「医者の需要はこれから減る」とは言われても、「法医学者の需要がこれから減る」なんてことはないのです!

そして何より「“まだ本番が来ていない現状”ですら法医学者が足りていない」わけですよ!?

これから更なる法医学者の労働環境の悪化は目に見えているのです。。

しかし、現状はそんなことをネットという大海で叫んでも何も変わることはなく、、、

↑の回答の通り、正直ここ数年、全く気運の高まりは感じません。。

法医学者が集まる学会で、お偉い先生方が毎回のように「このままではマズいですよ」と言及こそしますが、それで終わりです。

法医学者のポスト不足は何十年も言われ続けてきていることなので、こうやって伝統芸能のように繰り返されているというのが現状なのだと思います。。

では、何故そんなに変わらないのか?ポストが増えないのか?

  • 大学と警察の利害関係
  • 法医学側のインセンティブが小さい
  • 法医学の影響力/拡散力が弱すぎる

私は主に↑これら3つが関係していると思っています。

大学と警察の利害関係

まず『ポストを増やす』というのは『大学教員の定員を増やす』ということです。

実際に教員を採用し、法医学者にお給料を出すのはもちろん“大学”です。

つまり、最終的には大学が法医学教室(・講座・分野)の教員を増やしてくれなければお話になりません。

昨今は大学の懐事情も厳しくなってきており、どの大学も大型の外的資金を引っ張ってこれるような研究者を求めています。

その点、法医学者は、もちろん研究をがんばっている先生もいますが、

役割として求められている大きな業務が、言わずと知れた“解剖業務(死因究明業務)”ですよね。

ですが、大学側の目線で言うと、この解剖業務を行ったところで基本的にお金は入りません。

貰える解剖費を大学に入れている教室も多いとは思いますが、そんなの微々たるものですし、解剖の実費を差し引くとほぼ消えます。

なので、大学からすれば「大学運営費の獲得」には殆ど繋がらず、解剖をしたとて全く旨みが無いのです…。

それでいて、そんな解剖・死因究明の利益を享受するのは…【警察】です。

そりゃ「法医解剖は、犯罪捜査や事件解決のために、主に警察が依頼してくる」のですから当然です。

でも、大学からすれば「何で安いお金だけで、我々大学が警察のために貴重な教員という労働力や施設・設備を使わないといけないんだ!」となりますよね…。

ということで、大学は、他の教室を差し置いて、法医学教員の定員を優先的に増やすメリットは無いのです。。

法医学側のインセンティブが小さい

「それでも、法医学者が声を大にすれば…」と思う人もいると思いますが、

実際は、冒頭のように学会でお話が出てくるくらいで、

声が大な法医学者なんて殆どいませんし、気運が高まっている雰囲気は、少なくとも私自身は全く感じません。

それは何故か?

「別に言ったところで変わらないし」

おそらくこう諦めている先生方が多いんじゃないかと思います。

だって、もう何十年も言われ続けていることですよ。

それを今更同じように言ったところで…ね?

それに学会にいる先生方は、自分たちはすでにポストに就いているわけなので、これからポストが増えようが、そこまでのインセンティブにはならないですよね。

いや、むしろ話の流れによっては、自分の席が奪われる可能性も出てくるかも知れません。

「多少忙しいけど、現状でもそれなりに満足してるし、このままで良いじゃん」という思いが出てきても不思議ではありません。

確かに、教授レベルの「あと数年で退官なので」という大先生はそれで良いかも知れませんが、

私みたいなこの先長い?若手法医学者にとってむしろ死活問題です!(それなのに訴える力は若手にはない…)

何にせよ、実際の法医学者ポストの増加に対する現場の気運も冷めているという印象です。。

法医学の影響力/拡散力が弱すぎる

さて、仮に何とか↑のような状況を乗り越え、法医学者達がポスト増加に対して本気になったとしても、『影響力/拡散力が弱すぎる』という問題が出てきます。

さて皆さん、法医学についてどれくらい知っていますか?

  • 法医学とは何か?
  • 法医学者とは何をしているのか?
  • 死因究明とは何のためにあるのか?
  • どのような流れで解剖は行われるのか?
  • 解剖後はどうなるのか?結果はどのように活用されるのか?

一般の中でこういったことを深く知っている人は殆どいないでしょうし、

これらを知りたいと思っても、情報を得られる場所が無いことも分かると思います。

そう、、、法医学は完全クローズドな業界なのです。

それはもちろん“死”というナーバスな事象を扱うことや、犯罪捜査などにも関わる情報を多く扱うことから、一定程度はやむを得ないところもあるとは思います。

それでも、圧倒的に“オープンさ”が足りない、“クローズド過ぎる”と私は思うのです。

「ご遺体の尊厳、遺族感情」を免罪符に全ての情報を閉ざすきらいが、法医学全体にどうしてもある気がします。

正直な話、私のブログやツイッターすら良く思わない法医学者の話を実際に聞いたこともあるくらいですから。。

でも、知らないものに対して、市民感情なんて起きませんよね。

何とか法医学をもっとオープンにして、世の中に法医学を知ってもらう必要があると私は思うのです…。

前述した理由はあくまでも私の想像域を出ません。

裏では、お偉い先生方が関係各所に訴えて行動しているのかも知れません。(いや、むしろそうあってほしい…)

それでも、私のような末端の法医学者は何も感じないどころか、逆に現状に対する絶望感しか感じません。。

法医学側から何とか変わっていってほしいです。

そして、一般の皆さんには、可能なら法医学に興味を持って、もっとよく知ってほしいです。

人は1度しか死にませんし、死ぬ時には話せません。

なので、法医学において自分が当事者になる機会は殆どゼロに等しいです。(身内の死であっても、喉元過ぎれば熱さを忘れてしまうことが多い…)

そのため、私自身は「世間から直接法医学を変えること」は極めて困難だと思っています。

やっぱりそこは法医学者自身や大学、お役人さんの意識が変わらないと何とも…。

でも、そういった法医学者等の意識を変えてくれるのは世論だったりするのかも知れませんし、

法医学が何か変わろうとした時に支援してくれる人が多ければ嬉しいなと思うのです。

そして、私は小さなアカウントから、法医学の今をこれからも叫び続けようと思います。

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