監察医務研究所・死因調査事務所とは何なのか?

先日、あることを耳にしました。

『死因究明を行う株式会社が存在する』

確かに調べてみると、神奈川県に大きく2つの施設がヒットします。

今回はこちらを取り上げたいと思います。

一つは、名前に“監察医務研究所”を付しており、こちらはネット記事も出てきます。

私自身もこちらの存在自体は知っていました…というか、前述のような記事が出るくらいですから、殆どの法医学者も知っていたと思います。

現在、神奈川県は既に監察医制度を廃止しており、今までの“行政解剖”は全て“承諾解剖”に移行しています。

死因が不明で、かつ犯罪に巻き込まれた疑いの低い遺体を医師が解剖する行政解剖。県内では横浜市のみが監察医による解剖を行ってきたが、県は今年度末でこの監察医制度の運用を廃止する方針を固めた。廃止後は他の県内32市町村と同様、遺族の承諾の下で解剖医が執刀する「承諾解剖」に移行する。

2014/9/22 07:06 産経新聞ネットニュース

ただここに至るまでの経緯はかなり複雑かつ、かつての神奈川県の監察医制度はかなり特殊でした。

【行政解剖】にも関わらず、長年多額の解剖費用が遺族負担となったいたそうです。(※ネット記事参照)

また行政機関ではなく、私設の施設(監察医務研究所)で解剖が行われていたことに対しても疑問の声がありました。

それらが我々の業界でも一部で問題視されるようになり、そこからずっと続いていたのが、先の通り2014年度で制度廃止に至ったわけですね。

そういった経緯もあり『神奈川県は私設機関が法医解剖(特に承諾解剖)を実施し得る』という土壌が元々あったと言えます。

↓下は大阪府から出ている資料の一部を抜粋したものです。

解剖が必要と判断された場合の対応は、下記の通り記載があります。

上記検案の過程で必要に応じ警察と調整し、警察が解剖まで必要と判断したものは、死因身元調査法による解剖(H27年:558件)及び承諾解剖として、解剖医(元監察医)又は県内4大学(横浜市立大学、東海大学、北里大学、聖マリアンナ医科大学)の法医学教室に依頼し対応

なお、検案、解剖については、解剖医の事務所又は法医学教室で実施

従って、神奈川県では少なくともこの時点では、【解剖医(元監察医)によって、解剖医の事務所において承諾解剖が実施されている】ということですね。

わざわざ【監察医制度廃止前後で実際の体制は変わっていない】と書いてあるくらいなので、実際本当に変わっていないのでしょうね。

また令和5年度の神奈川県の解剖数を見ますと、

法医解剖全体が2992件で、そのうち1905件約64%“その他の解剖”(≒承諾解剖)が占めています。

これらの承諾解剖を、元監察医が全て行っているとなると、、、かなりの数ですよね。。

で、ここで新たに出てくるのが、もう一方の【死因調査事務所】です。

先の施設もそうなのですが、実は関連事務所が各々2つずつ出てきます。

どちらも代表者(役員)のお名前は同じなので、それぞれの会社で分業しているのでしょうか?

こちらの死因調査事務所も、左記の監察医務研究所と同様、法人の目的として【異状死体の取扱い、死因調査及び統計】を挙げており、

おそらくこちらの施設でも元監察医による解剖が行われているのだと思われます。(※あくまで私見ですが)

登記上は、こちらの会社が出来たのは令和2年だそうなので、こちらは監察医制度が廃止された後に設立された、比較的新しい会社のようですね。

、、、と、別にここまで、全うに業務をされているのなら全く問題のない話です。

法医解剖は基本的に警察の介入なしには行えませんので、おそらく警察のお墨付きがあるのでしょうし。

それより、私が驚いたのが、これらの監察医務研究所・死因調査事務所の会社形態が“株式会社”ということです!

株式会社ということは、“営利目的の法人”なわけですので、あまり医療関係ではお目にかかりません。

診療機関では、医療法人や社団法人・財団法人があるあるで、公共性のある業務に特化している場合なら、公益法人やNPO法人が通常じゃないですか。

それなのに、まして法医学が関係した解剖実施機関が“営利法人”ということに驚いたのです。

これは「営利法人なんて駄目じゃないのか!?」と批判しているわけでは全くありません。

むしろこれ一本で生計を立てようと思うなら、営利法人で運営できないと駄目でしょうし、、、ただただ「営利法人で運営できるんだ…」という驚きです。

前述のような医療機関であるあるな法人と違って、営利法人となると税制上の優遇措置が減るでしょうから、

私のイメージでは、経営が到底回っていかないものとばかり思っていました…。

法医解剖を行う株式会社って、案外うまく運営できるものなのでしょうかね。。

そういう意味で、私がひとつ気になる点が「解剖費をどうしているのか?」です。

“承諾解剖”となると、基本的に「遺族の同意を得て行われる解剖」であり、その解剖費用は一般的に「遺族が負担するもの」とされてきました。

この点は、以前の監察医制度でも大きな問題となりましたからね。。

会社として運営していく以上、きちんと利益を出していかねばならないでしょうが、

その源となるのは、この場合やはり解剖費だと思うのです。

ひょっとすると、警察から結構な額で補助金?等が出ているのかも知れませんが、

運営が出来ている理由が、「遺族からがっつり解剖費を貰っているから」ということだと、前述の問題のこともありますし、どこかモヤモヤします。

もちろん“承諾解剖”ですから、それを遺族が理解した上で希望し、実際に解剖が行われているのなら、全く問題ないわけですが…。

先の資料でもあった【監察医制度廃止前後で実際の体制は変わっていない】という一文は、そういう意味でも少し気になります。。

しかし、逆に言えば、もしこの株式会社のように、死因調査(解剖を含む)がうまく会社として回るポテンシャルを持っているのなら、

このノウハウを全国に広げることで、死因究明の格差を少しでも減らせるのではないか?と思うのです。

元々監察医制度があった神奈川県だからことできることなのかも知れませんけどね。

是非そのノウハウを我々にも教えてほしいですね!

その他、他に詳しい情報をお持ちの方がいたら教えてください。

何にせよ、現場にいてもまだまだ法医学は知らないことばかりです。

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