私は事ある毎に
「法医学に入るなら臨床経験を!」
と、口酸っぱく言っています。
この理由は法医学で働く上において、
・必要最低限臨床のことを知らないと診療情報が分からないから
・臨床バイトが制限されてしまうから
などが主な理由です。
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ここで言う“臨床経験”とは =臨床研修、つまりいわゆる“研修医”のことを指しています。
私自身も初期臨床研修を終えてから法医学に足を踏み入れました。
そして、その上で強く思うのが、
「もっと深く専門的な臨床医学を学ぶべきだった」
ということです。
具体的に言うと…
『専門医を取ってから法医学に来るべきだったかな?』
と感じることがしばしばあるのです。
もちろん、この考え方はあくまで私の主観的意見です。
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というのも、やっぱり法医学でも最近は“研修医上がり”が当たり前なんですよね。
基本的に最近の若手法医学者は、ほぼ100%初期臨床研修を修了して大学院生になってます。
そうなってくると、“(研修医レベルの)臨床経験”自体は決して大きな武器にはならないんですよね。。
「研修医レベルの知識なんて持っていて当たり前、むしろ、なければ…あり得ない?」くらいの勢いです。
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それでも、一昔前なら、まだ年配の先生方には、医師免許取得直後に法医学に入った先生も普通にいたので、研修医レベルの臨床知識であっても重宝がられました。
しかし、最近は上記の通り、ある程度の臨床知識は持っていて当たり前な時代ですからね。。
そういう意味では、今後法医学を目指す人にとっては、よりこの傾向が強くなっていくと思われます。
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そうなってくると、やはり研修医の更に上、つまり「専攻医レベル ≒ 専門医」まで突き詰めるべきだったのかな?と私自身思うのです。
まぁ、結局のところ、私自身が現在の自分を『何も専門性の無い法医学者』と感じているからなんですけどね…。
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例えば、、、
・病理組織を専門的に診れる病理医
・脳神経学的な知識に溢れる脳神経内科医
・小児疾患に強い小児科医
などなど、臨床専門医をベースとした法医学者という姿もあり得たよなーと思うわけです。
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法医学は臓器別な医学分野ではありません。
応用医学であり、様々な分野に幅広く跨がっています。
ですので、どの臨床科であろうと、絶対にそこで学んだ専門知識は法医学で活かせます。
だからこそ、専攻医研修は決して無駄にはならず、むしろその後の法医学人生で大きな武器になると思うんですよね。
研修医上がりに比べ、臨床バイトの幅もさらに広がりますし!
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しかし一方で、それだけ臨床経験を積む年数が長くなる(=臨床医でいる期間が長くなる)と、法医学教室との距離が遠ざかってしまう可能性は十分あり得ます。
医師免許取得後の臨床研修が2年、専攻医となるとそこから更に3〜5年かかります。
私自身も、研修医の頃は法医学教室の先生方との交流が続いていましたが、そこから更に3〜5年となると、どうなっていただろう…。
晴れて専門医取得後、改めて法医学教室の門を叩く勇気があったか…?
これは確かに正直、あまり自信はありません。。
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そして、「専門医を取得する」ということは、ある程度は「その診療科の医局人事に組み込まれる」という可能性も出てきます。
「専門医取ったら、この科は辞めて法医学に進みますので!」
これを好意的に受け止めてくれる診療科ばかりでもないでしょう。(もちろん、快く受け入れてくれる医局もあるでしょうけど)
このあたりは、専攻医開始前にきちんと擦り合わせておく必要はありますね。
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そして、気になる点の最後としては、「取得した専門医の維持は難しい可能性がある」ということです。
せっかく苦労して取得した専門医も、それを維持するためには、継続的な臨床経験が求められることもあるそうです。(詳細は各専門医をご自身でお調べください)
そうなってくると、法医学に足を踏み入れた後も、維持するために臨床を続ける必要が出てきます。
いわゆるそのような”二足の草鞋”をどこまで両教室(=法医学教室・臨床医局)が理解してくれるか?ということですね。
何より両者の業務に自分が忙殺されてしまわないことこそが最重要かも知れません。。
「本質的には(専門)知識こそが重要なのだから、専門医資格自体には価値はない!」という考え方もあるかも知れませんが、
せっかく頑張って取得したわけですしね、、、やっぱり勿体ないと思ってしまうのが人情ではないでしょうか?
「専門医を持ってます!」と「専門医を持ってました!」では、やはり前者の方が対外的には全然有利でしょうし。
このあたりは人それぞれ考え方があるところでしょう。
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ということで、「専門医まで取ってから法医学へ」というのはあくまで私の考えた勝手な理想像です。
あまり現実的な話ではないかも知れません。
そして、私自身は専門医まで取ってから法医学に進んだわけでもありません。
なので、これから法医学に進む人はあまり参考にする必要は全くないと思います。
「そんな考え方もあるんだな」くらいに思っていただければ幸いです。
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結局は、、、法医学教室に足を踏み入れた人だけが法医学者にはなれるのですッ!!
(だから、法医学に興味のある学生さんは法医学教室に来てね)