日本の中で最も人材豊富な死因究明施設…それはどこか?
旧帝大の法医学教室でしょうか? それとも首都圏の法医学教室?
否!
それは「東京都監察医務院」なのである!! <<ドドンッ

“監察医”というワードはメディアでも取り上げられる機会が増えましたが、まだまだ誤解は多い。
ということで、今回はそんな「東京都監察医務院」について詳しく書いていきたいと思います。
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監察医制度とは?
監察医は事件を扱わない!
まず「東京都監察医務院」を語るには、簡単に“監察医制度”について知っておく必要があります。
「監察医制度」とは、、、すごく大ざっぱに言うと「事件性のない異状死体の死因究明するための制度」です。
その死因究明を実際に担うのが医師免許を持つ“監察医”であり、実践する場が“監察医機関”ということですね。
“事件性”というのは、警察などの捜査機関が判断するわけですが、原則としてそこで「事件性はない」と判断されたご遺体が、監察医制度の範疇に入ってきます。
一方で「事件性のある/疑われるご遺体」は、大学の法医学教室に運ばれ、法医学者によって司法解剖等が行われるわけですね。
ちなみに法律には、下記のように書かれています。
政令で定める地を管轄する都道府県知事は、その地域内における伝染病、中毒又は災害により死亡した疑のある死体その他死因の明らかでない死体について、その死因を明らかにするため監察医を置き、これに検案をさせ、又は検案によつても死因の判明しない場合には解剖させることができる。但し、変死体又は変死の疑がある死体については、刑事訴訟法第229条の規定による検視があつた後でなければ、検案又は解剖させることができない。
死体解剖保存法 第8条
従って、監察医制度の対象は、下記のように、
- 病死だと考えられる事例
- 自殺が強く疑われる事例
- 独居で死亡していた事例
などになってくるわけですね。
間違っても「ナイフで他人に刺された」や「拳銃で撃たれた」などの事例は、監察医制度の対象となりません。
多くのメディアが間違っているのがここです!!
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監察医は公務員なのである!
先の法律には、都道府県知事の権限で「監察医を置くことができる」となっています。
つまり、監察医はあくまでも純公務員なのです!
これはかなりの多くの人が勘違いしています。大学にはいませんし(=医務院等の自治体の専門部署にいる)、大学教員でもありません(=純公務員)。
なので、大学の法医学者のように、業務として研究活動を求められることはありませんし、大学生に講義をすることもありません。
また、非常勤で働く監察医を除いて、原則兼業やバイトはできません。
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どの自治体でも監察医を置けるわけじゃない!
「大学も厳しい時代だし、全都道府県で監察医制度を導入すればいいじゃん」
そんなことを思いつく人もいるかもしれませんが、そうはいきません。
実は、監察医制度を導入できる自治体というのは、法律で制限されているのです。
その限られた導入可能自治体が「東京都23区、大阪市、横浜市、名古屋市、神戸市」です。
現在は、このたった5地域でのみ、監察医制度を展開できるのです。
内閣は、死体解剖保存法(昭和24年法律第204号)第8条第1項の規定に基き、この政令を制定する。
監察医を置くべき地域を定める政令
死体解剖保存法第8条第1項の規定に基き、次の地域を定める。
東京都の区の存する区域、大阪市、横浜市、名古屋市及び神戸市
※京都市と福岡市も法律上で定められていたが、予算不足や運用状況等の理由から昭和60年の一部改正時に削除された
また、現在も実効的に活動しているのは、前述の5地域のうち「東京都23区、大阪市、神戸市」の3地域のみと言われています。
※横浜市は2015年4月から廃止、名古屋市は年間取り扱いが数例のみとなっている
そのため、自治体が「監察医制度を導入したい!」と思っても、そのためには法律を変えるという重労働が必要なため、原則不可能に近いことに加え、
そもそも昨今の自治体財政の厳しさもあって、「新たに導入しよう」なんて自治体はほぼないと考えてよいでしょう…。
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【本題】東京都監察医務院とは?
そんな現代には稀有な存在となった監察医制度ですが、唯一と言ってもよい程度にしっかりと運用できているのが、今回取り上げる「東京都監察医務院」なのです!
第二次世界大戦後の多くの飢餓死を背景に、GHQによって監察医務機関の設置が要請されました。
最初の監察医業務は、東京都において、都の管理下で東京大学・慶應義塾大学に監察医務業務が委嘱されたことで始まりました。
その後、1947年にはGHQの指導によって東京に続き、大阪、京都、横浜、名古屋、神戸、福岡と合計7つの都市に広がります。
そして、1948年3月21日、東京都監察医務院が開院され、これが日本で初めて開設された監察医務機関となりました。
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現在の東京都監察医医務院の人員
現在(令和7年度時点)の職種別の人員数は下記の通りです。
※()は定員
【常勤】
- 医師:13人(14人)
- 薬剤師:0人(1人)
- 臨床検査技師:12人(13人)
【非常勤】
- 監察医:63人
- 診療放射線技師:4人
実際に「常勤医師が13人、非常勤医師が63人がいる」ということで、東京都監察医務院は日本最大の死因究明機関なのです!
ただし、実際は非常勤監察医の多く(≒ 7割近く)が普段は大学の法医学教室で働く法医学者であり、「解剖経験のため」という目的で兼務する先生が多いです。
また非常勤監察医の6割以上が都外の機関に所属しています。
それでも、常勤医が13人もいる法医学教室なんて、日本には絶対ありません!
現在、全国の法医学教室の多くは、教授を含めても医師がわずか1〜2名だったりしますし、いわゆる“一人法医”というギリギリの体制で地域の解剖を回している大学すら実際に存在します。
都市部のように、法医学医師が3〜4人もいれば「かなり恵まれた環境」と呼ばれる世界線なのです。
そんな中で、常勤医だけで13名、さらに非常勤医が63名も結集している東京都監察医務院は、法医学の世界で考えれば、まさに「アベンジャーズ」のごとき、桁違いの巨大要塞なのですッ!!
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監察医務院のカバー範囲
上記にもあったように、東京都監察医務院がカバーする地域は「東京都23区」であり、それ以外の多摩地区や島嶼部は原則として制度の範疇外となります。
それが都内でも「死因究明格差」として、問題になっています。
多摩地区では監察医による検案を開始したり、都内の大学法医学教室が解剖協力するなどの努力を受けて、東京都もその“格差”を何とかしようとしていますが、未だ抜本的な解決には至っていません。※後述
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監察医務業務の流れ
実際に監察医制度に則ると、どのような流れになるでしょうか。

上記は概略ですが、わかりにくいので補足します。
大きく監察医チームには2種類あります。“検案班”と“解剖班”です。
文字通り、「検案を担当するチーム」「解剖を担当するチーム」であり、
- 検案班:監察医1人 + 監察医補佐1人 + 運転手1人の計3人チームが4〜6班
- 解剖班:監察医1人 + 臨床検査技師1人 + 監察医補佐1人の計3人チームが3班
でそれぞれ構成されています。
解剖における解剖補助者には「監察医補佐」と「臨床検査技師」がいますが、両者の住み分けは下記の通りです。
- 臨床検査技師:死体の切開・縫合、臓器の摘出、検体・血液の採取
- 監察医補佐:各臓器の重量測定・記録、尿・胃内容物等の採取、遺体の洗浄、解剖用具の個数確認等事後整理
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全体の流れとしては、まずご遺体が発見されると、一般の方は警察に連絡をしますよね。
そして、警察が監察医務院に検案を要請します。
その要請を受けた医務院から、検案班が警察署などのご遺体の元に出動し、検案をします。
検案で死因が判明した場合は、その時点で死体検案調書および死体検案書が警察と遺族にそれぞれ交付されます。
検案を経ても死因がわからない場合には、解剖班によって行政解剖(あるいは院外で司法解剖等)が行われた上で、解剖報告書・死体検案書が発行されます。
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取り扱い数の実際(解剖率など)
令和6年中の取り扱い数は、下記の通りです。
- 検案:1万6449件
- 解剖:2222件
- 解剖率:13.5%
監察医務院も「解剖率30%」を目指していますが、なかなか現実的には厳しいところです。
ちなみに令和6年度の多摩地区では、、、
- 検案数:501件
- 解剖数:13件
- 解剖率:2.6%
解剖率が【23区 13.5% v.s. 多摩地区 2.6%】ということで、前述の「都内での死因究明格差」はまだまだ縮まっていないと言わざるを得ません。
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死因の実際
実際に年間1万6000体を超えるご遺体を取り扱い、判明した死因を見てみます。

- 病死:67.9%
- 災害(≒ 事故):9.3%
- 自殺:9.3%
- 不詳の死:12.4%
ご覧のように、死因の種類でいうと、やはり「病死」が過半数を占めます。
下記の円グラフのように、
- 病死では、循環器疾患が7割弱を占め最も多い(その中でも虚血性心疾患が最多)
- 災害(≒ 事故)では、転倒・転落と窒息がそれぞれ5分の1を占め比較的多い
- 自殺では、縊頚が最も多く約半分、飛び降りが次点で4分の1を占める



もちろん、これらの数字はあくまでも「医務院に運ばれてきたご遺体における統計」です。
つまり、病院死などは含みませんし、法医学教室で解剖された事例も原則含みません。
例えば、「既往歴による看取り死」はかかりつけ医によって書類が発行されるでしょうし、「他殺あるいは自殺か判断不明の服毒死」は、法医学教室で解剖になることもあるでしょう。
なので、統計を読み解く上で、「この数字の全てが、23区内の死亡事例の全てを表しているわけではない」という点には十分に注意が必要です。
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監察医になりたい場合は?
「私も監察医をやってみたい!」
この記事を読んで、そう思った人がいるかも知れません。
では、どうすればなれるか?
一つは「求人に応募する」です。
東京都は、不定期に常勤監察医を募集しています。それに応募するのです。
ただし、欠員が生じた際の不定期募集であり、また募集先も法医学会の会員向けに行われたりするので、希望者の良いタイミングで募集を見つけられるとは限りません。
従って、普段法医学教室で法医学者として働いておいて、「良いタイミングで募集が出たら応募してみる」くらいの気持ちでいた方がよいと思います。
なりたい気持ちだけで監察医になれるものではありません。運も多大に必要なのです。
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二つ目は、「監察医務院の事務室庶務担当に問い合わせしてみる」です。
監察医務院が実施する検案・解剖研修を修了した上で採用されます。
ただ“非常勤”となると、常勤のようにかっちりした募集ではありません。
「実際に知り合いの監察医に聞いてみる」などのコネクションを経て非常勤監察医となる先生もいます。
ただ、コネが無くても「監察医をやりたいんですけど…」と医務院に問い合わせしてみる手段もあります。
医務院の公式HPにも【監察医としての勤務を希望する方へ】というページがあるので、必ず一読してください。(HPリンク)
そこには「研修を受ける前に法医学もしくは病理学の実務経験があることが望ましい」とも書いてあるので、法医学教室等で実際に法医学のイロハを学んでおくことが原則として前提とされています。
連絡先については、「詳細については当院事務室庶務担当にお問い合わせください」と記載されていますので、希望者は公式HPを確認の上、一度問い合わせしてみるとよいでしょう。
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まとめ
以上が、東京都監察医務院の説明です。
いかがでしたでしょうか。
- 監察医制度は限られた地域でのみ導入されている
- 監察医は公務員である
- 東京都監察医務院は日本で最も大きな死因究明機関である
- 監察医になりたい人は「運良く募集があったら応募する」あるいは「実際に医務院に問い合わせしてみる」
皆さんも医学部に入り、医師となった暁には、監察医を目指してみてはいかがでしょうか!?

