今年の夏も暑いそうですね。
「皆さん、熱中症に気をつけましょう!」
近年ニュースでも、そんな注意喚起をよく目にするようになりました。
そこで今回は【熱中症死亡】について取り上げたいと思います。
なお、あくまでも一法医学者の私見であることにご留意ください。
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熱中症死亡の実態
皆さんは熱中症で年間何人の人が亡くなっているか知っていますか?
ズバリ“統計上は”【年間2000人強】(※2024年度)です。
| 男性 | 女性 | |
| 熱中症死亡者数(人) | 1303 | 857 |
ちなみに“低体温症”は「男性 786人 / 女性 608人」なので、
低体温症死亡/凍死よりも熱中症死亡者の方が多いです。
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死因統計データは正確な熱中症死亡者数を反映しているのか?
ここで問題になってくることがあります。
それは「果たしてこの統計データは正しいのか?」です。
結論を先に書くと、私はこの2000人という数字は現実を過小評価していると判断しています。
厚生労働省の出す各都道府県の熱中症死亡者のデータを細かく見てみますと、下記の通りとなっています。

熱中症死亡者が多い都道府県をピックアップしてみると、、、
| 死亡者数 | 100万人あたり死亡者数 | 参考: 2024年推計人口 | |
| 東京都 | 424人 | 約29.9人 | 約1419万人 |
| 大阪府 | 282人 | 約32.2人 | 約877万人 |
| 神奈川県 | 231人 | 約25.1人 | 約922万人 |
| 兵庫県 | 139人 | 約26.1人 | 約533万人 |
| 静岡県 | 80人 | 約22.7人 | 約352万人 |
| 千葉県 | 64人 | 約10.2人 | 約628万人 |
| 鹿児島県 | 62人 | 約40.5人 | 約153万人 |
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| 愛知県 | 58人 | 約7.8人 | 約747万人 |
| 埼玉県 | 37人 | 約5.0人 | 約733万人 |
トップ3まではなんとなく人口に比例して増えているような気がしますよね。
しかし、4位以降から話がおかしくなります。兵庫県が4位に位置し、逆に人口の多い愛知県や埼玉県は入ってきません。
これは何故か…?
そう、上位4位はすべて監察医制度が中核都市に存在する(もしくは存在した)府県なのです。
愛知県や埼玉県の数字を見ると、人口あたりの熱中症死亡者は上位の府県に比べ遙かに少ないです。
同じ人口の比較的多い府県の間で、こんなに死亡者の割合が違うなんてことはあるのでしょうか?
愛知県や埼玉県では、東京や大阪などに比べて、熱中症で死亡するほど気温が高くならないのでしょうか?
県が積極的キャンペーンをして、ほかの府県よりも熱中症発生率を抑えられているのでしょうか?
そんなことありませんよね。つまり、これらの数字は「監察医制度がある地域では、積極的な死因究明の結果として熱中症死亡者の数字が増えている」ということを表しているのです。
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なぜ監察医制度があると、熱中症死亡者の数が増えるのか?
なぜ監察医制度がある地域では、熱中症死亡が増えるのか?
これは決して「熱中症死亡者そのものが多い」わけではなく、「熱中症死亡者をきちんと拾い上げられているから」です。
実際、熱中症死亡の典型例としては、
・屋外で労働をしている最中に倒れる
・エアコンも効いていない屋内で死亡している
などが多いです。
この場合、前者では「目撃証言がある」、後者では「他人が侵入した形跡がない」などから、犯罪性の関与が乏しく、解剖に回る可能性は比較的少ないケースに当てはまると考えられます。
でも、死因ははっきりしていません。死因不詳です。
そうなると、監察医制度がある地域では、監察医の目によってしっかりと死因究明をなされて、結果的に「熱中症」という診断が下る…結果的に熱中症死亡者数が増えるというわけですね。
実際、臨床現場の救急医からも『単に熱中症を起こしやすい環境で亡くなっていたというだけで、死因を【熱中症】と記載するのは難しい』という声がよく聞かれます。
また熱中症で亡くなった場合、時間が経つと通常以上に腐敗の進行スピードは速く、発見時に腐敗が進んでしまっていると、ご遺体を診るのは救急医ではなく、検案医(警察医)の先生になります。
検案医による外表検査だけでは、解剖による内部所見の確認ができないため、目の前の腐敗したご遺体が「熱中症によって亡くなったのか否か」を判断するのはほぼ不可能でしょう。
結果的にそういったご遺体は『死因不詳』と判断されてしまい、熱中症死亡も表に出てこなくなってしまうのです。
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熱中症死亡者は実際はもっと多い
結局何が言いたいか?といいますと、
「熱中症死亡者は年間2000人よりも、実際はもっと多いはずである」
ということです。
前述のトップ4の人口100万人あたりの熱中症死亡者数を算出すると、上記の表にあるように、熱中症死亡者は【約25〜32人/100万人】です。
それを日本の全人口(1.24億人)で計算すると、およそ『3100〜3900人』と推定されます。
つまり現状として、年間1000人強の熱中症死亡者が、正確に死因究明されていない可能性があるのです。
この現状をどうすべきなのか?
では、そのような状況下で、我々はどのようにすべきなのか?
正直に言えば、現状を変えられるような解決策はありません。
前述のような犯罪性が低いと考えられがちなご遺体の場合、監察医制度のない地域で解剖に回る機会はごくわずかです。
外表を観察するだけでは決して熱中症と診断できません。
唯一できるのは、我々一人ひとりが「統計に表れないだけで、実際は今の1.5倍以上の人が熱中症で亡くなっているはずだ」と知ることです。
だからこそ、公式の数字以上に熱中症を「身近な死の脅威」として認識し、エアコンの適切な使用や水分補給など、自分自身の予防策を徹底することが最大の自衛になります。
最後になりますが、改めて…皆さん、熱中症にご注意くださいッ!!

