先日、北海道で学会があったのですが、そこで法医学の院生さんと話す機会がありました。
皆さん優秀で、考えもしっかりしていて、本当に心強さを勝手に感じていた次第ですよ。
ただ、一見すると、周りからはそんな順風満帆な院生生活に見えても、人には言えない悩みを抱えている人だってきっといることでしょう。
むしろ、初対面のおじさんに悩みを打ち明ける方がどうかしていますね。笑
そこで、今回は自分が院生だった頃の悩みと、その対応、そしてその結果「今は振り返るとどう思うか?」について書きたいと思います。
※なお、下記の大学院の話は「医学系大学院」を指しており、基本的には臨床研修を修了した医師が、その後に法医学の院生としてキャリアを始めるというシチュエーションをイメージしています。
…
院生の頃の悩み 〜2大巨頭〜
- きちんと学位が取れるか?
- 経済的な意味として、順調な生活が送れるか?
大きい小さいはあれど、私だけでなく、院生の悩みはおそらく上記の2つに集約されると思います。
学位取得について
なぜ大学院生になるのか?
その究極的な理由は「学位を取るため」です。
学位を取らないのであれば、わざわざ学費を払って院生になる必要はありません。
従って、「学位を取ること」は、院生の至上命令と言えます。
…
医学部卒業後、博士課程を修了し、博士号(博士学位)を取るためには、基本的に4年間のカリキュラムを修了する必要があります。(※優秀であれば3年で取得できる大学もあります)
修了条件も細かいところは大学院によって多少違いはありますが、一つには大学講義のような「座学の単位取得数」があります。
ただこのハードルは大学ほど高くないのが一般的です。普通に講義を受けて理解すれば単位を取得できる大学院がほとんどでしょう。
最大にして、実質的に唯一の修了条件が「博士論文審査の合格」です。
院生期間に、しっかりした論文を作り上げ、それを大学教授陣で構成される学位審査委員に認められることで博士学位をいただけるのです。
そして、その博士論文が「査読制度のある国際誌に受理(アクセプト)されること」を前条件としている大学も多いです。
従って、多くの院生にとって、この「博士論文の国際誌受理」が、学位取得の律速段階となります。
…
前置きが長くなりましたが、私は、この博士論文がアクセプトされるまで、すごく不安でした。
いろいろ逆算すると、、、
研究論文となると、初回の査読に数ヶ月、修正・リバイスを含めると受理されるまでに半年から1年近くかかることも珍しくありません。
そのため、遅くとも院生4年目の始まりには雑誌社に投稿しておきたいですね。
そうなると、院生の3年目後半にはある程度の研究成果を出し揃えたいです。
となると、研究内容にもよりますが、2年目の間に「本格的に研究を実施する」と…。
そうやっていろいろ考えると、案外ゆっくりできる時間ってないんですよ。
法医学の場合、これ以外に、院生の間に解剖手技についても学ぶ必要があります。
院生後は、法医認定医を取得して自ら執刀しなければなりませんからね。
てなこと↑を私は院生で考えてみたんですが、考えるだけで気分が沈んじゃいましたよ…。「本当に計画通りにいくのか?」とね。
…
…と言いつつ、幸か不幸か、解剖助手で日々結構忙しかったので、不安になったのは最初の数ヶ月だけで、その危機感はすぐに忘れてしまっていました。
振り返れば、精神安定という意味で、その忘却は良かったのかもしれません。
今でこそ感じますが、研究って計画通りにいかないのが普通です。
もっと具体的にいうと、研究実施自体は計画通りに進めるのですが、研究結果が思った通りに出ることがほとんどなく、
それらに対応していると、結果的に計画に追加要素が増えていき、最終的には計画通りにいかなくなるわけですな。
なので、「ざっくりと計画する」ことはすごく重要ですが、細かな計画は立てたとしても崩れる可能性が高いものと思っていた方がよいと私は思っています。
よく「余裕を持って計画すること」とアドバイスされますが、それができたらみんな悩みません。笑
…
結局、実際の私はというと、先ほど書いたように解剖助手にどっぷり浸かってしまい、周りの同期を見ても、終盤の学位取得はかなりドタバタな方でした。
幸い雑誌投稿が順調に進んだので、院生期間が延びてしまうことはなかったのですが、5年目に突入する可能性は全然あったと思います。
しかし、まぁ、、、結果オーライです!
…
とはいえ、周りの話を聞くと、私の修了した大学および法医学教室は、比較的学位取得のハードルは低めだったようです。
他大学の話を聞くと、ある程度の研究成果が出ていても、「教授がその結果を認めない(学位取得にはもっと良いデータが必要!)」とか、「国際誌アクセプトが複数報必要である」などの裏条件があったりするところもあるそうですから。
当時の私がそういう大学で同じことをしていたら、ひょっとすると院生を離脱してしまっていたかもしれません…。
ご自身のいる大学・法医学教室がどのような方針か?はしっかりと理解しておく必要があると言えます。
研究は数ヶ月でできあがるものではありません。きちんと向き合わなければ達成できない山なのですッ!
…
経済的不安について
2つ目は「院生の間は経済的に不安定になる」ということです。
院生は学生の身分ですから、その間大学から給料をもらえるわけではありません。むしろ学費を払わなければならないほどです。
それではやっていけないので、研修医の頃に貯金をしていた人はそれを崩しながら、そうでない場合はアルバイトをして4年の日々を乗り越えなければなりません。
これが結構精神的にもきつかったです。
研修医の頃の友人は、後期研修医としてバリバリ専門的な臨床を実践しつつ、給料が上がり傾向にある一方で、
自分は、学生という身分で、専門性の不要なアルバイトで日々生活する…
「この対比が少なくとも4年続く辛さ」はやっぱりありましたよ。飲み会にいく回数も若干減った気がします。(それは経済的な意味よりも、精神的な側面が大きかったと感じています)
…
私の場合、幸いにして、知り合いから“割のいい”アルバイトを紹介してもらえて、なおかつ結構バイト日も多かったので、4年の間は経済的な不安はそこまで感じなかったです。(むしろ、教員1年目の方が院生時代のバイト収入よりも1割弱ほど年収が下がりました…)
また、私のいた法医学教室は、アルバイトに行くことに関しても寛大でした。
なので、逆にバイトに行き過ぎて、研究計画が…となってしまいそうになる時もあって、「それは良くないな」と自制したのを覚えています。
この「バイト方針」についても、法医学教室によって様々な考え方があると聞きます。
「大学院生は、研究するのが本分だ!バイトに時間を割くなんてあり得ない!」という方針の教室もあるようです。
そうなってくると、週末当直で生計を立てることになりますが、それも週明けに疲れが出たりしますからね。
私がやっていたバイトも、結局いわゆる「寝当直」だったのですが、本当に寝当直で、ほとんど実働時間はゼロでした。これは本当に助かりました。
私個人的には、ある程度しっかりと時間を割いてアルバイトするのもありだと思います。(これは本当に教室の方針によりますが)
…
加えて、バイトの探し方に悩むこともあるかもしれません。
私のように人のツテで運良く見つけられる人もいるとは思いますが、法医学教室には臨床バイトのツテはないことが多いです。(ちなみに、私のツテは、臨床の知り合いからのものでした)
そういう場合は、やはり民間の医師バイト紹介サービスを使うことになります。
実際に使っている人に聞くと、「ツテで探すより、エージェント的にいろいろと面倒なやり取りも代わりにしてくれるからいいよ」と言ってました。
もし周りにいい知り合いがいないようであれば、そういうサービスを使うのもありかもしれませんね。
…
バイトに関して、振り返ってみると、「私は運がよかったな」と改めて感じます。
- 法医学教室がバイトに寛大だったこと
- バイトを紹介してくれる知り合いがいたこと
- バイト内容が比較的負担の軽く、時給がよいものであったこと
「4年だけ」と割り切って、バイトをせずに貯金の切り崩しでやっていくのもありかとは思いますが、貯金がなかったり、家庭を持っていたりするとそうもいきませんよね。
しかも、院生が終わって、法医学教員になっても、正直給料はそこまで(同年代の臨床医ほど)高いわけではありません。私のように年収が減る可能性だってあります。
そう考えると、「生活のため」と割り切ってバイトをするのは全然ありだと思いますし、
バイトで得た臨床知識を、法医学に生かせる可能性も少なからずあるので、自分の置かれている状況でバイトをすることを考えてもよいと私は思います。
…
自分の院生を今振り返って思うこと
これまで自分自身の院生生活を振り返ってみたのですが、結果的に思うのが、
「まぁ、そこまで不安になる必要もなかったのかな?」
ということです。
…
何事にも理解ある教室・上司で、置かれた環境に恵まれていたから、不安に対して自由に足掻くことができた。
これは確かに、単なるポジショントークかもしれません。
でも、きっとそんな恵まれた環境でなくても、私は何とか足掻いて恵まれた環境を見つけていたと思います。
実際に、
- 「このままじゃ研究がマズい…」と感じて動き始めた
- 「この時期には投稿を終えたい」という目標を設定し実行した
- 「バイトしたいんですけど…」と上司に掛け合った
- 「何かよいバイトってないかな?」と知り合いに聞き回った
この辺は、誰かに言われたでもなく、自ら思い至り行動に移した結果です。
やはり何事も自ら行動しなければ、「運がよかった」と今感じることもなかったと思います。
…
「院生生活をどうしたらいいかわからないし、誰かに言われるまで待っておこう」となってしまったら、院生生活はうまくいかないと私は思います。
特に法医学教室は、“放置プレイ”が得意な先生が多いです。笑
「気づいたらもう手遅れ」とならないよう、常に自分の環境を見つめ直すことを強くおすすめしたいです。
この記事が、悩める法医学教室の院生さんに届き、一つでも役に立つことを願っています。
法医学は、、、本当に良いですよ!

