法医学者への100の質問 11〜20番目

さて前回から、10個毎/合計100問の質問に答えていく企画を進めています。

今回は11〜20番目です。(まだまだ先は長い…)

どうぞお付き合いください。

【法医学者への100の質問】

法医学に関する質問(続き1)

11. 法医学者になってから変わった視点や価値観は?

法医学ブログ
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何事の判断にも慎重になりましたねー。

「本当にそうなの?」「実は○○だったりするんじゃないの?」

…そんな疑い深い人間になっちゃいました。笑

やはり法医学者は【真実を追究する】のがお仕事ですから、「本当に“そう”なのか?」という視点は、否が応でも持つようになります。

人の言うことは意外?と信用できないものも多く、その人の思い込みや主観的な価値判断によって、結論が曲がってしまっていることも多々経験します。

「(そもそも、前提としている)その判断は正しいのか?」

「それは単なる主観的な感想に過ぎないのではないか?」

これらを証明するため、疑うことから始め、できるだけ客観的な判断をするように日常生活から心がけています。

12. 最も心に残った法医学の研究成果は?

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死因とDNAの関係を調べていた時は、「こんな目に見えないもの(=DNA)が原因で亡くなってしまうものなのだな…」と、改めて考えさせられました。

見てわかる【解剖】と違って、DNAやタンパク質、化学物質などの研究対象物って、まぁ人の目じゃ到底見えないんですよ。

研究していると、「そういった目には見えない物質が、死因を紐解くヒントになったり、時には死に至らしめることすらある」ということに改めて気づかされます。

人の目に見えるものだけを追っていては法医学ではやっていけません。

13. 法医学と他の医学分野の違いは?

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やはり「対象が既に亡くなってしまっている」ということでしょうか!

従って、臨床の【診断→治療】という2本柱ではなく、【診断】一本になります。

最近は“臨床法医学”という、生きている人を対象とする法医学領域も出てきましたが、

それでもやはり、まだまだ法医学でご遺体が主な対象です。

ですので、“治療”という過程が無い分、「いかに正確に診断(=死因究明)するか?」というところに全振りしてます!

それでなおかつご遺体は喋りませんから…皆さんが思っている以上に死因究明は難しいんですよー。

14. 法医学でよく誤解されることは?

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多いのは、「法医学者は現場に行く」「法医学者は根暗ばっかり」「法医学者は解剖好きなサイコパスばかり」でしょうか!?

そもそも法医学を正確に知っている人に(医者も含め)出会ったことないです。笑

臨床医の先生にすら、病理学と勘違いされてしまう有様です。

なので、殆どの人が法医学を何かしら勘違いをしているんでしょうし、そもそも存在を知らない人も多いんだろうなぁと私は思ってます。

法医学者は基本的に、死亡現場には赴きませんし、

根暗な法医学者かどうか?は人によりますし、

解剖はしんどいから苦手だという法医学者も実は多いです。

ひょっとすると、昔の法医学者は奇人・変人が多かったのかも知れませんが、、、

近年の法医学者は、別に普通の医者とあまり変わらないと思いますよー。(と思っている私が変わっているのか?笑)

15. 鑑定結果に自信がない時、どう対処しますか?

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知り合いの法医学者に相談するか、一生懸命文献を調べるしかないです。

「結果の解釈に自信がない」なんて、私にはザラにあります。

その度に、先輩法医学者に相談したり、似たようなことを書いた文献を調べまくります。

…というか、それしか方法がないんですよね。

鑑定は、個人に嘱託されますから、自分がわからなければ、結論も「わからない」んです。

なので、相談でも文献検索でも、結局はそれを自分の頭に落とし込んで、理解するしかありません。

理解して「わかる」しかないのです!

16. 犯罪ドラマや映画、どの作品がリアルだと思いますか?

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“リアル”という意味では、NHKで夏に放送されたドキュメンタリー【法医学者たちの告白】だと思います!

前回の質問でも書きましたように、“リアル”という観点において、ドラマや映画といったエンタメ作品は、どうしてもリアリスティックに欠けます。

やはりリアルなのは、法医学者そのものを映し出した“ドキュメンタリー”だと個人的には思いますね。

NHKの特番では、そのあたりも含めてリアルでしたよー。(リンク:法医学者の告白 by NHK

ただ「リアルであればエンタメとして良いのか?」と聞かれれば、個人的にはそうでもない気がしていて、

リアルな法医学は、このきらびやかなものが溢れかえる世の中においては、地味で退屈に思えてしまうかもしれませんねぇ…。

なので、エンタメ作品は別にリアルじゃなくても良いのではないでしょうか?

サイコパスな法医学者が、違法な解剖をバンバンやって、次々と事件を解決に導いていく映画の方が観たくないですか?笑

17. 法医学を学ぶ上でお勧めの本はありますか?

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法医学ガチ勢なら、洋書一択です!

以前Xかブログ記事で書いた気がするのですが、この質問は「法医学を学ぶ」主体が誰か?に拠るんですよね…。

医学知識のない一般の方が「法医学に興味を持ちたい!」と思えば、上野正彦先生の著書が読みやすいでしょうし、

もっとエビデンスレベルが高い知識が知りたくて、初学者であるなら、まず日本語の教科書を読めばよいと思います。(参考ブログ記事:法医学の教科書あれこれ

実際に法医学者として働いているのなら、洋書や論文を適宜読み込んでいくくらいしか選択肢はないですねー。

18. 法医学者としての成功とは何ですか?

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うーん、、、やっぱり世間的には「教授になる」とかになるんですかね?

法医学者としての成功…そんなこと考えたこともなかったですよ。

でも、やっぱり世間的にわかりやすい成功は「教授に就任する」とかになるんでしょうね。

私自身も、仲のよい臨床医の先生に「法医学に行きます!」と伝えた際には、

『お前もゆくゆくは教授になるんかー』みたいなことを言われました。笑

ただ私自身あまり教授職には興味がないので、、、

真面目すぎて恥ずかしいですが「今の脆弱な死因究明を立て直す」というのが、目指すべき成功だと思ったりします。

19. 臓器の状態から何がわかるんですか?

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当然ですが、臓器の所見から病気がわかったりしますし、腐敗の程度などから死後経過時間が推定できたりします。

えらく抽象的な質問ですが、臓器の所見から、病気や死後経過時間がわかったりします。

固形癌があればある程度見れば悪性腫瘍であることはわかりますし、皮膚に黄疸が出てて肝臓が凸凹だったら「お酒飲みかぁ」とか、脳が萎縮していたら「認知症だったのかな?」とかですね。

もちろん、死後経過が進むと自家融解が進んだり、脂肪が液状化するので、逆算的に死後経過時間が推定したりします。

肉眼病理学は、法医学の基本です。

20. DNA鑑定が普及する前と後での法医学の違いは?

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私は普及後世代の法医学者なので、、、ですが、身元特定の制度はDNA鑑定普及後、格段に上がったと思います!

私が法医学に入った時点で、DNA型鑑定はもうかなり普及していたので、正直、何か大きな実感があるわけではありません。

ただ逆に「今DNA型鑑定が存在しなかったら…」と考えると、

身元特定のためだからといって、血液型鑑定や指紋鑑定といった旧手法に戻ることは到底不可能なくらい、DNA型鑑定に頼り切っている感がありますね。

以上、11〜20番目の質問になります。

後半はもう少しプライベートな質問や、将来に関する質問があったりします。

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