調査法解剖は監察医解剖の代替となり得るか?

先日、厚生労働省のHP上にて『令和5年版 死因究明等推進白書』が公開されました。(※リンク)

内容は昨年度と大きな変化は殆どなく、ビッグニュース的な内容も無いですけどね。

個人的に「興味深い」と思ったグラフがありました。

これ↓です。

全国の解剖数の年時変化なのですが、

・司法解剖
・調査法解剖
・その他の解剖(監察医解剖および承諾解剖)

の3種類に分けて記載されています。

これを見ると、

司法解剖 → 年々増えている
調査法解剖 → ほぼ横ばい
その他の解剖 → 年々減っている

という傾向がありますね。

調査法解剖とは“事件性なし”と判断されたご遺体に対して、警察署長の判断で実施することができる解剖の種類で、2013年から導入されました。

「事件性なしのご遺体に対する解剖」という点は“監察医解剖”にも似ているわけですね。

ただ監察医解剖は法律上、特定の地域でしか導入することができないので、

「調査法解剖制度の導入によって、監察医制度が導入されていない地域における死因究明が進む」と期待されていました。

さて、それでは実際に事件性のないご遺体の解剖は増えたのか?

…少なくとも、前述のグラフからは、そんなことはなさそうですね。。

むしろ監察医解剖と調査法解剖の合計数は、年々減ってきてそうなので(ただ近年はプラトーに達したか?)、

「やっぱり思ったようには進んでいないんだなー」というのが私の印象です。。(※そもそも事件性のないご遺体の解剖の必要性については今回触れませんが)

個人的には、調査法解剖の予算は少ないのでね…そこがちょっと。

調査法解剖の件数は、司法解剖の3分の1ですが、
調査法解剖の予算は、司法解剖の10分の1なんですよね。。

つまり、調査法解剖は(司法解剖に比べて)低予算で行われる解剖と言えてしまいます…。

警察的にも「事件性のないご遺体に対する調査法解剖よりは、事件性のある/疑われるご遺体に対する司法解剖をより充実させたい」みたいな心情があるのかなとか思ったりしちゃいますね。

むしろ、中途半端に「事件性なし」とするのではなく、少しでも疑うならしっかりと司法解剖の方で!みたいな。

お偉いさん方が考えることの詳細は、私にはよくわかりませんが、

記事のタイトルにある「調査法解剖は監察医解剖の代替となり得るか?」に対して、

『現状のままでは、代替となるのは難しそうだ』

これが私のアンサーです。

最後に「令和5年版 死因究明等推進白書」に掲載されていたトピック文を転載して終わりにします。

長いですが、興味がある人は読んでみてはいかがでしょう。(もちろん白書自体も一度目を通してみてください)

<TOPICS> 我が国における死亡数等の推移と各都道府県における解剖実施体制

我が国の死亡数は、増加傾向にあり、平成15年には100万人を超え、令和3年は143万9,856人にまで達している。
また、国立社会保障・人口問題研究所が公表している「日本の将来推計人口(令和5年推計)」(出生中位・死亡中位)によれば、今後も死亡数の増加は続き、令和23年には166万4千人にまで増加すると推計されている。
こうした中、警察や海上保安庁が取り扱った死体のうち、犯罪の嫌疑が認められるものは司法解剖が、司法解剖の対象ではなくとも、その死因が、警察等として被害の拡大・再発防止等の措置を講ずる必要があるような市民生活に危害を及ぼすものであるか否かを確認するため、必要があるものは調査法解剖が、それぞれ実施されている。
また、これらの解剖が実施されない場合でも、公衆衛生等の観点から(例えば、感染症による死亡が疑われる死体について、その死因を明らかにして感染拡大防止措置の要否等を判断する必要がある場合)、死体解剖保存法(昭和24年法律第204号)の規定に基づき、監察医の判断による解剖(以下「監察医解剖」という。)が実施されたり、遺族の承諾を得て、医師等の判断による解剖(以下「承諾解剖」という。)が実施されたりするケースもある。
警察及び海上保安庁が取り扱った死体について、死因・身元調査法が施行された平成25年から令和4年までの間の解剖率注5)をみると、平成25年の11.3%から平成28年の12.7%に徐々に上昇し、その後、令和4年の9.8%まで徐々に減少している。
また、解剖の種別ごとにその実施件数をみると、司法解剖の実施件数は概ね横ばいである一方、調査法解剖の実施件数は増加傾向にあり、その他の解剖(監察医解剖、承諾解剖等をいう。以下同じ。)の実施件数は、平成30年以降減少傾向にある。

このうち、令和4年の解剖の実施状況を都道府県ごとにみると、特に、その他の解剖については、28県において1件も実施されていないなど、公衆衛生等の観点から解剖が行われているかどうかは、地域によって大きな差がみられる。
さらに、こうした解剖は、大学の法医学教室、一部の地域に設置されている監察医務機関等において実施されているが、これらの法医解剖実施機関において解剖等を実施する常勤職員の法医の数)は、15県において1名のみであり、人的体制の脆弱性が見受けられる。
近年では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、こうした感染症に感染している可能性のある死体について、これらの機関に解剖が委託されるケースも少なくないが、解剖における感染予防のために望ましいとされる空調設備等が十分に整備されていない機関も多く、施設・設備面での体制が十分とは言い難い。
こうした中、厚生労働省においては、各地域において、必要な解剖等が実施される体制の構築が推進されるよう、都道府県知事が必要と判断する解剖等の実施費用を補助する事業や、解剖等の実施に必要な施設及び設備の整備費用を補助する事業、各地域における死因究明拠点の整備を推進するための死因究明拠点整備モデル事業等を実施している。
また、現在、厚生労働省に置かれた本部の下、多方面の有識者を構成員とする推進会議を開催し、こうした死因究明の実態やこれら事業の成果等を踏まえつつ、死因究明等推進計画の見直しに向けた議論を進めている。』

【令和5年版 死因究明等推進白書】p51-52より
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