日本の死因究明制度はややこしい!
そんな声をよく聞きます。
しかし、本当にそうなのか?世界は本当に日本よりもっと素晴らしいシステムで動いているのか?
そう疑問に思った私は、調べてみることにしました。
今回はその中でも近年制度が変わった「英国」の死因究明制度について書いていきたいと思います。
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さて、英国の死因究明制度というと、勉強熱心な方は『コロナー制度』が頭に浮かぶことでしょう。
日本の検視制度もこれを倣って導入されたり、オーストラリアや米国の一部でも現役で運用されている制度です。
コロナー制度を簡単に説明すると、「異状死体の報告がなされた遺体を、死因究明に関して調査権限を持つ“コロナー”に回し、より精度の高い死因究明を実現しようとする制度」と言えます。※詳細は成書へ

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そうした中、英国は【シップマン事件】という歴史的な事件が起きます。
【シップマン事件の概要】
- 犯人: 英国の優秀な開業医(ハロルド・シップマン)。
- 事件の発覚: 1998年、彼の担当患者の死亡率が異常に高いことに同僚医師が気づき、検視官に相談したことで捜査が開始。
- 被害規模: 調査の結果、政府は最低でも215人の患者(主に47歳~93歳の女性)が彼によって殺害されたと発表。
- 結末: 2000年に終身刑の判決を受けるも、動機を一切語らぬまま2004年に刑務所内で首吊り自殺(享年57歳)。
つまり、20年以上にもわたって死因究明制度をすり抜け、200人以上もの命がたった1人の開業医によって奪われたわけです。
「なぜ誰も気付かなかったのか?」
これを調査するために、2001年より「シップマン調査」が開始されます。
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この事件が起きた大きな要因の一つに、『一人の医師が「病死」と診断書を書けば、第三者の実質的なチェックが入らないまま処理されてしまう制度の穴』があったと言われています。
英国では火葬を行う際、主治医とは別の医師(Medical Referee)が書類を確認して署名するルールがありました。
しかし、実際にはこの確認医師は、主治医であるシップマンからの報告を鵜呑みにして署名を行っていたのが実態でした。
そういった現場の怠慢を含め、2年の調査を経て問題点を洗い出し、結果的に英国は死因究明システムの大きな変更を決めます。(Shipman effect)
- 処方の適正化を徹底
- 死亡診断書の形式が変更
- 火葬前のチェックを厳格化
などなど…これら現行制度の改善に加えて、2024年からは新しい死因究明制度も始まりました。
それが【Medical Examiner Services】(MES)です。
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MESをあえて日本語に訳すなら「監察医サービス」となりますが、要は、
「コロナーに報告しないような非異状死体(病死など)であっても、すべての死が担当医から監察医へ報告され、監察医によるカルテ審査や遺族への聞き取りが行われる」
という制度です。
日本の監察医とは違い、ここ英国での“監察医”は「すべての病死を対象とし、カルテ審査と遺族への聞き取りを行う」のが業務であり、自ら解剖はしません。
その過程で医療過誤の疑いがある、あるいは死因が不適切であるなどの異状事態が発覚した場合、監察医から既存のコロナー制度へ改めて報告が行われます。
このように、英国は死因究明において「医師の性善説」をやめたわけです。
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ちなみにイングランドとウェールズでは、若干システムが違っています。
- イングランド:各医療機関内にMESが存在する。独立性に問題があるとの指摘もあるが、“監察医”自ら臨床医と連携して死亡診断書を精査する。
- ウェールズ:全域の公的医療を統括する1つの独立した組織内にMESが設置されている。“監察医”は、監察補佐員の支援を受けて業務を遂行し、実際に臨床医と連携するのは主に監察補佐員である。
この徹底ぶりを「えぇやん!」と思う人もいるかもしれません。
しかし、この厳格な制度導入によって新たな問題も起きています。
一つは「死亡診断書を受け取るのに時間がかかる」という問題です。
すべての病死事例において、遺族からの聞き取りやカルテの確認をするのですから当然といえば当然です。
死亡診断書の発行にかかる日数は、イングランドで約5日、ウェールズで約8日が中央値となっているそうです。
また、ご遺体を安置するモルグ(冷蔵庫)も慢性的に不足し、“空き待ち”が発生することも増えました。
これらが、普通の“病院死”で起きているわけです。
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さて、皆さんはこれに対してどう思いますか?
「しっかり確認してもらうために、ある程度時間がかかってしまうのはやむを得ない」と思いますか?
それとも「明らかな病死なのに、すぐ死亡診断書を貰えないのは嫌だ!」と思いますか?
英国はシップマン事件という悲惨な事件が起きたため、制度がある程度厳しくなるのはやむを得ない部分はあるでしょう。
ですが、個人的には「病死だからといって、すべて素通りでOK」という考え方には少し違和感を抱いています。
なぜなら、現在の日本の病院死において、必ずしも満足な死因究明は行われていないと感じるからです。
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もちろん、「余命幾ばくもない末期がんの患者さんが、数日後に亡くなった」というケースはほぼ確実にがんによる病死でしょう。
しかし、まだ死が予期されていなかった患者さんの急変死というのも、病院ではままあると聞きます。
例えば、主治医ですら「ある程度進行したがんはあったけど、まだ死ぬとは予期してなかった」と思うケース。
こういった事例も臨床現場では、結局のところ「死因:○○がん」として処理されてしまうことが多いはずです。
ですが、本当にそうなのか?と私はどうしても思ってしまうのです。
それは別に決して医療過誤を疑っているわけではありません。
予期せぬ急死に対し、ご遺族が医療側の対応を疑い、責任追及としての死因究明を求めたくなる気持ちもわかります。
しかし、私が言っているのはあくまでも「公衆衛生的観点」での重要性です。
もしかしたら、背景に食物誤嚥があったのかもしれませんし、肺塞栓が起きた可能性もあります。
もしそれがわかれば、ひょっとすると「もっとここに注意していれば天寿を全うできたかもしれない」というのがわかる可能性もあるのでは?
そういった想いが私の心の奥にあるのです。
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英国に限らず、死因究明はやはりどうしても「犯罪防止」や「捜査目的」としてばかり注目されます。
もちろん、警察などの捜査機関が死因情報を有効活用してくれるのは、それはそれでやりがいのある仕事です。
ですが、我々法医学者はあくまでも医師であり、探偵や捜査員ではありません。
医師という本分を改めて見つめ直し、「医学としての法医学」の重要性にもっと多くの人に気づいてほしいと願っています。
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さて、今回のテーマ、皆さんはどう感じましたか?
今回は近年新しく始まった英国の死因究明制度【Medical Examinar Services】をご紹介しました。
また余裕があれば、世界の死因究明制度について書きたいと思います。

