それまで健康だったのに突然亡くなる…。
解剖しても特に直接死因となる所見がない。
血液を分析しても異常は認められない。
そんな経過のご遺体に法医学ではよく出会います。
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じゃあ死因は何なのか?
こういうケースで多いのが、“急性心臓死”です。
文字通り「急性に心臓が原因で亡くなってしまうこと」です。
そしてこの原因の大半が“虚血性心疾患”とされています。
心臓を養う動脈(冠動脈)の硬化や狭窄・閉塞によって、心臓に血流不足が起きて、突然死しまうのです。
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従って、解剖をすると冠動脈硬化が確認されることは確かに多いですね。
しかし、ご遺体によっては、
冠動脈硬化がやや軽い
冠動脈硬化はあるが、年齢相応
それでも他の所見は全くないので、死因は虚血性心疾患と考えざるを得ない。。
そういうケースもあるんですよね。
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個人的にはモヤモヤします。
臨床医の先生とカンファレンスしてもよく議論になります。
そんな死ぬほどの冠動脈硬化ではない!
生前に一度も虚血発作は起きていないじゃないか!
そんなこと言い出したら、高齢者になったらみんなPCI(心臓カテーテル治療)しなければならないってことになるじゃないか!
そういうお声も一部先生から頂戴します。。
確かに私が臨床医していた頃の記憶を考えても、「こんな程度で?」と正直思ったりはします。
でも、、、これが現実なんですよね。
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そんな医学的なシチュエーションだけなく、法医学ではしばしば
『○○というシチュエーションだけど解剖所見は××だから、●●としか考えられない…』
「そうしかと考えられない」
「そう考えざるを得ない」
残念ながら?、そんな状況に頻繁に出会います。
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世間は「解剖さえすれば必ず死因が明らかにできる」そんなことを思っている人も多いです。
ご遺族さんから「解剖したのに死因がわからないんですか!?」
なんて厳しい言葉を頂くことだってあります。
しかし、これが現実であり、法医学者は万能ではない。
世の中には、そういったリアルな法医学も知っていってほしいと心から思いますね。